生活と小説 その3

 ハタケヤマは自分が頭の良いタイプの人間ではない、ということをよく分かっていたから、ヤマザキのよく分からない話を、よく分からない人間なりに、よく分からないけど、きっと意味が分かると楽しいんでしょうね!といったような表情で聞いていたけれど、やっぱり、よく分からない話を一時間も聞かせられ続けていると、腹が立つ。どうして本棚の上で唄ったら芸術なんだよ。一発殴りたい。
 ヤマザキヤマザキなりに、この話はハタケヤマには通じないだろうなと思いながらも、どうしても誰かに話さないと自分の気が収まらなかったので、ハタケヤマにかわいそうだけれども、犠牲になってもらった。すまないハタケヤマ。
 ハタケヤマと駅前で別れてから、ドトールエクセルシオールカフェシャノアールあたりで本を読もうと思ったが(スタバは嫌だ。スタバに長時間居座るやつは、順番待ちの人間にもっと気を使え)、アマゾンから届いた本を、自宅に置き忘れていたことに気付き、腹が立った。どうして、届くまで二週間も待った本を置き忘れちゃうんだよ。一発、自分を殴りたい。
 松屋でビビンバ丼を食べていると、となりの客が話しかけて来たので、顔を向けると、二十年前以上に、いっしょにうつ病のグループ治療を半年ほど受けていた人だった。ヤマザキは、自分のことを覚えていてくれたことに感動したけれど、当時のメンバーの五人ほどが既に死んでいて、そのうち二人が自殺したことを聞かされた。こうなると、もう何をどう考えていいのか、何を喋っていいのか分からなくなって、とりあえず連絡先だけもらい(彼はオオカワラさんという名前)、不自然な形で会話を切り上げて、店を出て、ぼーっとしたまま、ドン・キホーテでアイスを買って帰ったが、自室でパソコンを起動させてメールをチェックするころには、ガールフレンドにメールを打つほど、回復している。