生活と小説 その6

 その中華料理店というのは、駅前から少し歩いたところにあり、店員はみな中国系と思われ、広東風なのだか上海風なのだか北京風なのだか、細かいことはよく分からないが、とにかく安くて美味しいので、ヤマザキは三日に一度くらいは利用していたのだが、ある日、すべてのメニューが百円値上げされており、多分、いままで日本における値段の付け方を間違っていたことに気付いたかのようであった。
 ヤマザキは佐々木にそもそも何を相談しようとしていたのか忘れてしまっていて、そもそも相談しようと思っていたのかさえ忘れてパクパクパクパク、海鮮焼きそばを食べていたら、佐々木が「で、なに?」と聞いてきた。ヤマザキ紹興酒のせいで、多少酔っ払っている。「何が、ですか?」
  
 サイゼリコと冷麦は次の撮影場所を井の頭公園に決める。ボートに乗りながら歌おうということになり、吉祥寺駅からテクテクテクテクテクテクと歩いたのだが、井の頭公園にたどり着かない。たぶん、今いる場所は井の頭公園のすぐそばなのは分かったのだが、いかにも「ここが井の頭公園です!」という噴水やらボートやらが視界に入ってこない。
 じゃあ、ここで休みましょう、そして、とりあえず撮影しましょう、と和洋折衷的な変な建物へ。
 そこがホテル井の頭。